ケーキの切れない非行少年たち

書籍紹介

著者が多くの非行少年たちに会う中で「反省」そのものを認識できない子どもが多い現実に気付く。
本書ではそうした「ケーキを等分に切る」「図形を写す」などができない認知能力が育まれていない少年たちに対して少年院の現状、原因の想定、今後の対策などリアルを伝える本となる。
“一般“社会に生きる私たちは、社会から隔離された人々の現実を知ることができる。

さて、犯罪を繰り返す少年たちはなぜ繰り返すのか?
そもそも彼らは「反省」を認識できていないことが多いと著者は言う。
口上だけの反省ではなく「なぜいけなかったのか?」などの思考ができていないことである。
では、「なぜいけなかったのか?」はどうやって生まれるのか?
それは“相手の立場に立つ““社会規範と照らし合わせる“などなど様々であるが、その全てがモノを認知する能力に関係している。
例えば、相手を認知できなければそもそも“相手の立場“すら想像ができない。そう彼らは想像することが困難なのである。
そのため、彼らが認知できるのは己の本能のみであり考えられないような衝動的な事件を起こす。

さてさて、本書をみていこう。
問題行動を頻繁に起こす少年に行った「複雑な図形をみながら描き写す」という検査にて見本とはまるで違う図形を描いたのだ。
線すらも安定していない図形をみた著者は、少年がそもそも視ているモノを認知できていないことに気付く。
彼らは総じて「図形を描き写す」、「ケーキを等分する」などモノをみて、認識処理し、出力することが困難なことが多い。
皆さんも記憶にないだろうか?
子供の頃、マンガなどを描き写した際に最初うまくできなかったことなど。彼らはその状態のまま大人になったと認識してほしい。
彼らは、真面目に描いてそうなのだ。
本来学校教育や家庭などで育まれる機能が育っていない現状がここにある。
本書でも指摘されているが、そういった認知能力に関する知識自体が現学校教育に欠けていると記されている。
小学校ではそこまで顕著に差は生まれないため、上記の認知能力問題はそうそう表に出てこない恐れがある。
仮に表に出たとしてもぱっと見普通の子供と変わらないため見過ごされる。行動自体も突発的であっても障害とは認識できない。

ただ中学校になると話は変わってくる。
周りが成長していく中で、そもそも認知という地盤ができていない為遅れをとっていく。
できて当たり前をみられることが多く、
イジメられたりして引きこもったり、ストレスから問題行動を起こしたりし、やがて事件に発展することもある。

彼らは総じて「境界知能」にいる存在であり、知的障害と通常知能の境界に存在する。全体人口の十数%はいるとされており、彼らの中でも一般的な生活が送れている者も多くいる。ぱっと見では普通の人と変わらない。ただ認知能力が絡んだ際に問題が露呈する。
理由として一般社会では知能障害に対する理解はあるが、境界知能の人々には理解が追いついていない現実がある。ある程度の受答えが問題なけれは境界知能も一般知能も同じに扱われる。
これが問題を複雑化させる。仮に障害者手帳を持てたとしても受け手側の理解が追いついていない。
そのため、出来ることと出来ないことがわからず仕事を振ってしまい問題が起きる。理解がない為、出来ないことが理解されず仕事を辞めるケースも存在する。

時代が変わり理解されつつはあるが、充分とは言えない。著者は学校教育時点で対策をとる必要あると語る。彼らは認知能力が低いだけで伸び代が無い訳では無い。時間は掛かるが鍛えることは可能なのだ。本書にあるように「反省」に対して表面上的なことしか語れなかった少年が「なぜいけなかったのか?」を考えられるようになったように。
本書に記載されているような認知能力トレーニング例などを用いて五分でもいいので行うことで、彼らの将来も守ることができるのである。経済的にみても、彼らが一般社会で問題なく働ければ少年院運営も少なくなり、事件も減ることで経済効果も大きく世の中にも貢献できると著者は言う。

本書を読んでいない方は一度読んでみてはどうか?
一般社会では蓋をされ表に出されない人々を知る事は大事である。なにせ彼らも含めて“一般社会“なのだから。

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